契約書の締結は、その前提として締結する当事者が必要だ。しかし、契約を締結できるのは意志を持った人間のみであるため、法人であれば、誰と契約をすればいいかという問題が生じる。個人であっても、個人商店であれば、個人名が直接は出てこない。
今回はそのような場合の対応方法について説明する。また、契約当事者が変更となる場合についても説明する。
目次
1.契約の当事者となれるのは、個人又は法人
契約の当事者となれるのは、個人又は法人に限られる。人格の主体となれるのは、個人のほか、法律が特別に認めた、法人格を持った組織である法人に限られる。
よくある間違いとして、「○○株式会社○○支店」の名前で締結することがあるが、正式な方法ではなく、当事者としては○○株式会社で締結するのが正しい。無効とまでは言えないが、注意すべきといえる。
このような契約を締結する背景は、あくまでも契約の効力を支店の範囲内で限定させたい場合だろう。そうであれば、契約当事者は○○株式会社としたうえで、限定させる旨、契約書に記載すべきだ。
2.個人事業者が契約当事者になる場合
個人事業者である「○○商事」の○○氏が契約当事者となる場合、「○○商事 代表○○」と、個人名が誰か分かる形で署名又は記名押印する必要がある。
「○○商事」とだけ記載してしまうと、誰に効果が帰属するか不明確となり、例えば債権回収の場面となった場合、誰を相手に請求すればいいか立証することが困難になる。個人名まで確実に記載すべきだ。
3.法人が契約当事者になる場合
法人の場合、「○○株式会社代表取締役○○」と、代表者が署名又は記名押印するのが一般的だ。代表者であれば、包括的な権限があり、内部的な権限の制限はその事実を知らない当事者に主張できないこととなっているため(会社法349条5項)、一番安心できる。
常務取締役、取締役、支店長、事業部長、部長、課長といった役職者と契約をする場合、会社法14条1項により、「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する」とされており、その役職者の権限の範囲内であれば契約は有効に成立する。
しかし、権限がありそうに見えて実際にはないということもありうる。権限内の取引であるという確認はとっておくべきだ。例えば、A支店での取引も入っているのに、B支店の支店長と契約をした場合、A支店での取引については支店長が勝手にやったことで契約は無効であると相手に主張されるリスクが生じる。
4.契約相手が亡くなった場合
契約相手が個人で、亡くなった場合、契約上の権利義務は相続の対象となる。純粋な金銭債権については、遺言等の特段の事情がなければ、法定相続分により分割される形になる。
しかし、必ずしも分割されるというわけではなく、契約の性質に応じてケースバイケースとなるので、注意が必要だ。
債権者ではなく債務者の立場であった場合も同様で、テナントビルのオーナーが亡くなった場合には、賃料を払う相手が誰であるか、問題が生じるケースもある。迷った場合には専門家に相談すべきだ。
5.契約相手が社名変更した場合
契約相手が株式会社で、社名を変更した場合、あくまでも変わったのは社名であり、法人が変わったわけではないため、契約を再度結ぶ手続きは不要だ。但し、実務的には念のためということで確認の意味で書面を取り交わすことも行われる。
6.契約相手が会社分割した場合
会社分割というのは、耳慣れない言葉かもしれないが、会社の事業の一部を分割するという制度で、会社分割の際に分割による移転の対象となる契約をしていた場合、新法人に契約が自動的に承継されるという効果がある。
しかし、債権者としてみた場合、新法人については、資金的な余力が乏しく、契約を引き継いで欲しくないと思う場合もよくある。その場合には、会社法上、債権者保護手続があり、異議を述べることで、実質的に旧法人から支払いを受けることができる。期間制限があるため、制度の内容について認識しておく必要がある。
会社分割は契約が自動的に承継されるが、念のためということで、社名変更の場合と同じように、確認の意味で書面を取り交わすことがある。
※会社法改正の際には、「詐害的会社分割」が問題となった。これは、旧法人に対して債権をもっていたところ、会社の中心的な事業が新会社に引き継がれ、もぬけの殻になっていたケースである。上記の事例とは少し違うことに注意してほしい。つまり、この場合は債権が新会社に移転するわけではないため、債権者異議手続の適用対象外となってしまう。「詐害行為取消権」またはそれに準じた会社法上の制度により、債権者が救済されることがあるという制度となっている。
7.まとめ
契約当事者は個人又は法人に限られる。法人と契約するときは代表者と、個人商店と契約するときも個人名が分かるように契約書を締結すべきだ。相手が亡くなったり組織変更をした場合には、必要な対応を行う必要がある。