上場企業の株主総会では、最低単位の株式を購入する資金があれば誰でも株主になれることから、株主がどのような行動をするか予め予想することは難しい。そこで、質問や動議への対応準備を万全に行っておく必要がある。
今回は、株主からの質問・動議への対応について説明する。
※以下の記述は上場企業を前提としている。閉鎖会社の場合や、取締役会を設置しない会社の場合は、規制の内容が異なってくるので注意してほしい。
1.株主総会での説明義務
株主からの質問があった場合には、回答をする必要があるのが原則だ。一方で、次のものについてはする必要はない。
(1)決議事項・報告事項に関しない質問
決議事項・報告事項に関係しない質問については回答をする必要はない。例えば、将来の展望を聞かれたとしても、そのようなものは決議事項・報告事項に関係しないことが多いと思われるため、回答をする必要はない。しかし、株主総会は会社のPRの意味もあるため、現実には回答をすることが多いだろう。
(2)説明をすることにより株主共同の利益を著しく害する質問
ライバル企業が質問権を利用して企業秘密を聞き出すと、他の株主の利益を害する。そのようなことを防止するために、株主共同の利益を著しく害する質問には回答する必要はない。
(3)説明をするために調査が必要な場合(株主が相当の期間前に質問事項を会社に通知した場合や調査が著しく容易である場合を除く)
回答をするために調査が必要な事項は回答する義務はない。但し、調査が著しく容易なものについては回答する義務があるため、議案や報告事項について聞かれてもある程度は回答ができる体制を整備しておく必要がある。事前に株主から質問事項があった質問については、調査が必要でも回答する義務があるが、実際の総会について質問がなされなければ、総会で説明する義務はない。
(4)説明することにより会社・第三者の権利を侵害することとなる場合
例えば第三者のプライバシーに関する情報が含まれている場合には、回答する義務はない。
(5)実質的に同一の事項について繰り返して説明を求める場合
既に回答済みの内容であれば、重ねて回答する必要はない。一つの質問を言葉を代えつつ長時間繰り返しするような質問に対しては、議長は議事整理権を行使して株主の質問を打ち切り、回答をすることができる。
(6)その他正当な理由がある場合
上記以外にも、正当な理由があると判断される事項は、回答する義務はない。但し、裁判所にも認められるような正当な理由であることが必要であるため、慎重な判断を要するだろう。
2.議題・議案の提案・修正動議への対応
会社法は、「議題」と「議案」を区別しているため、まずはその違いを理解することが重要だ。
「議題」とは、「取締役の選任」「配当」など、株主総会の目的となる事項で、「議案」とは、「Aさんを取締役に選任する」「1株当たり3円を配当する」などの具体的なものだ。
株主が「議題」を提案するためには、通常の上場企業の場合、6か月前から株式を保有することにより1%以上又は300個以上の議決権を持つことが必要で、なおかつ「議題」の提案を8週間前に会社に請求する必要があり、そのハードルは高い。
一方で、株主が「議案」を提案するためには、株式の保有制限はなく、株主総会において発言すればよいだけだ。但し、「議案」は「議題」の範囲内で提案する必要がある。例えば、「配当」が議題となっていれば、具体的な配当金額を議案とすることができるが、議題にない、監査役の選任について議案とすることはできない。定款を変更するという議題で、1条を変更するという議案は、定款の1条を変更するという議題であると評価されるため、2条を変更する議案を提出することはできない。
このように、議題については8週間前に予め提案したうえで、その範囲内で株主総会にて議案が提案されるという仕組みになっている。
議題の範囲内の議案であったとしても提出できない議案としては、次のようなものがある。
(1)法令・定款に違反する議案
(2)株主が議決権を行使することができない議案
(3)過去3年間に10%以上の賛成を得られなかった議案
会社側からすれば、このような議案の提案であれば、応じる必要はない。単に会社側提案の議案に反対する議案や、議案の決め方を決める議案(取締役の選任議案を提出せず、選任の人数を諮る議案等)については、議案としての意味がないため、提出できない議案となると考えられる。
議案提案権を認めて採決する場合に問題となるのは、会社側提案について会社が取得した議決権行使書の扱いだ。まったく別内容の議案の提案であれば、あらかじめ取得した議決権行使書の賛否は考慮することができず、出席株主の過半数で決することになる。しかし、議案の提案は、議題の範囲内に限られることから、会社が提案した議案と株主からの提案としては矛盾する内容になっていることが多いと考えられる。この場合には、会社側提案に賛成する議決権行使書については、株主からの提案議案の反対票と解釈するのが妥当だ。
また、議案提案権のほかに、すでに提出された議案に対する「修正動議」がある。修正動議は、議案を新規に提出するものではなく、既存の議案を修正するということに特色がある。修正動議も、議案提案権を根拠に出席株主に認められる。
修正動議がなされたときは、議長は、原案を先に採決することを諮ったうえで、原案を審理し、原案が採決されれば、議長は、原案の可決により修正案は否決された旨を説明するのが一般的だ。
株主の発言が、議案提案権の行使なのか、修正動議なのかについては、議事の進行が異なるため、株主の意思を確認し明確にすることが望ましい。
3.その他の動議への対応
議長不信任動議に対しては、議事の公正に関わるので、必ず採決をしなければならない。その際には、議長が採決を行ってもよい。手続的動議であるため、議決権行使書は考慮することはできず、出席株主の過半数の決議で判断することになる(このようなことがあるため、友好的な大株主には総会に出席してもらう必要がある)。
このほかに、対応が義務付けられる動議として、総会検査役の選任、会計監査人の出席要求、総会の延期・続行がある。
4.まとめ
株主からの質問に対しては、原則として回答する義務があるが、決議事項・報告事項に関係しないものや、一定の質問に対しては、回答する義務はない。想定される質問については、可能な限り準備をしておこう。
株主からは、株主総会において議案を提案することができるほか、既存の議案の修正動議をすることもできる。この場合には、当初の議題の範囲内か、その他提案できる議案であるかを慎重に確認したうえで、採決の手続きをおこなっていく。