グループで企業を経営をしていると、グループ再編のために合併により消滅した会社の取締役となったことのある人物を、合併により存続している会社の社外監査役にするニーズが生じることがある。
会社法上の公開会社である大会社では、監査役の設置が義務付けられ、その場合半数以上を社外監査役にする必要があるため、社外監査役を多く確保する必要が生じることが多いからだ(社外監査役の割合は、過半数ではなく、半数以上という点に十分注意しよう)。
社外監査役の要件として、過去にその会社の取締役であった場合には、社外監査役にはなれない。しかし、合併消滅会社は、「その会社」とは別の会社といえるのか、それとも合併により当事者の地位を包括承継している以上、「その会社」と同じ会社とみなされてしまうかが問題となる。
1.社外監査役の要件
社外監査役は、過去に当該会社又は子会社の取締役、会計参与、執行役、支配人、使用人であった場合には、なることができない。
但し、平成26年会社法改正により、この要件は、過去10年間なったことがない、という内容に変更された。すでに社外監査役を設置している場合で、3月期決算の会社の場合、平成28年6月の定時総会から、改正会社法が適用される。就任前に当該会社又は子会社の監査役であった場合には、その就任前10年も対象期間に加えられることにも注意しよう。
2.合併等があった場合の社外性の引継ぎ
A社、B社、P氏がいたとして、平成24年4月1日にA社を存続会社、B社を消滅会社として、A社とB社が合併しているケースで考えよう。
P氏が合併後のA社の取締役であったことがある場合には、当然のことながら、A社の社外監査役になることはできない。過去に取締役であった場合には、社外監査役になることができないとされているからだ。但し、平成26年の会社法改正により、取締役でなくなった後原則として10年経過すれば、社外監査役になることができる。
P氏が合併前のA社の取締役であった場合も同様の結論になる。
では、P氏が合併前のB社の取締役であった場合にどうなるか。合併の効力は、権利・義務の一切を承継する包括承継であるといわれている。そうすると、B社の取締役であったことが、合併により、A社の取締役であったということになってしまうかが問題となる。
結論から言うと、この点はそのように考えられてはいない。合併により承継されるのは権利義務で、過去にB社の取締役であったという地位が、合併により、A社の取締役であったという地位に承継されるわけではないからだ。
この点、会社法施行規則76条第4項は、株主総会で選任する役員の候補者が社外取締役候補者であるときは、株主総会参考書類には、次に掲げる事項(株式会社が公開会社でない場合を除く。)を記載しなければならないとして、「過去二年間に合併等により他の株式会社がその事業に関して有する権利義務を当該株式会社が承継又は譲受けをした場合において、当該合併等の直前に当該株式会社の社外取締役又は監査役でなく、かつ、当該他の株式会社の業務執行者であったこと。」を当該株式会社が知っているときは、その旨を記載することを定めている。
この規定は、合併前の消滅会社の業務執行者は社外監査役になれることを前提に、その事項を株主総会の参考書類に記載するよう求めているものだ。業務執行者とは、業務を執行する取締役や、使用人のことをいうが、本来、業務執行者は社外取締役になれないため、会社法施行規則は、合併により消滅した会社の業務執行者であったという地位は、存続会社に引き継がれないという考え方を前提としているといえる。
なお、社外取締役の場合にも同様の規定がある。会社法施行規則を確認してみよう。
3.まとめ
合併により消滅した会社の取締役になったことがある者は、10年間の期間制限にかかわらず、存続する会社の社外監査役になることができる。