利益相反取引とは、具体的には、
(1)取締役から会社が融資を受ける
(2)会社が取締役の保証人になる
といった、会社が一方的に損害を受け、取締役が一方的に利益を受けるという、相互の利害が相反する取引のことだ。利益相反取引をする場合には、取締役会設置会社の場合、取締役会の承認が必要だ。
ここで、資本関係を通してグループ経営をしている場合、グループ間で代表取締役や取締役の兼務があると、場合によっては利益相反取引に該当するため、注意すべきポイントについてまとめた。
1.利益相反取引とは
まずは、利益相反取引とは何か、説明しよう。
利益相反取引には、(1)取締役から会社が融資を受けるといった、取締役が会社と取引をする場合(直接取引)、及び、(2)会社と第三者との取引だが、実質的に利益が相反する取引(間接取引)の2種類のタイプがある。
(2)の例としては、取締役が銀行から受ける融資について、会社が保証人になるといったものだ。会社が保証人になれば、取締役は低利での借入が可能になる一方、会社は当該取締役が借入金を返せないリスクを負うことになり、利害が対立している。間接取引は、直接取引では拾いきれない取引をカバーしている。
会社法は、利益相反取引により会社が不利益を受ける可能性があることを受けて、取締役会設置会社ではその取引について取締役会で承認をすることを義務付けている。仮に利益相反取引により会社に損害が生じた場合には、決議に賛成した取締役も含めて取締役が責任を負う。これにより、会社法は株主を保護している。
たとえ会社にとって有利な取引条件であったとしても、贈与等の会社が一方的に有利なものでない限り、取締役会にてその内容を審査し、承認することが義務付けられているので、注意が必要だ。
尚、例外的に、約款に基づく取引等、取締役の恣意が働く余地が全くない取引については、規制の対象外と考えられている。
2.グループ会社間の取引で問題となる場合
グループ会社間の取引について利益相反取引に該当することが多いのは、取締役個人が直接契約をする場合だけでなく、取締役が、他の会社を代表して行った取引も、取締役自身の取引として利益相反取引になるためだ。
すなわち、A社の取締役Pが、B社の代表取締役を兼務していた場合、A社がB社と契約を締結する際に、取締役PがB社を代表して取引をすれば、利益相反取引に該当する。代表を兼務していない方の会社で取締役会の承認が必要となることに注意してほしい。
PがA社の代表取締役であった場合には、更に利益相反取引は発生しやすい状況となる。
グループ会社間での取引は、このような取締役、代表取締役の兼務がよくあることから、利益相反取引が発生しやすい状況にある。
尚、A社とB社との取引であっても、Pがその取引についてB社を代表して取引をせず、B社の別の代表取締役が取引をすれば、利益相反取引とはならない。そのため、取締役会の決議を不要としたければ、B社のP以外の代表取締役が取引をするというのが一つの対応だ。
また、B社が銀行等から借り入れた債務について、A社が保証する場合については、B社の代表取締役がPであったとしても、B社とPが株式の保有等により一体的な関係にあると認められない限り、間接取引とは認められないだろう。
3.包括的な承認
グループ会社での役員の兼任により、予め利益相反取引が多く発生する場合には、包括的な承認をすることも許されている。その場合には、取引の種類・数量・金額・期間等を具体的に指定して、取締役の裁量の余地を十分になくす必要がある。
4.完全親子会社の場合
利益相反取引は株主を保護するための規定だ。そこで、完全親子会社間(100%の株式を直接・間接に有する関係)の取引であれば、実質的な株主は同一であるため、利益相反取引の規制は適用されない。
但し、登記が必要な取引は、100%親子会社間の取引であるという関係を把握できるとは限らないため、登記を通すために、承認の決議をしておく必要が生じる場合があることに注意が必要だ。
私見だが、同じ完全親会社を持つ子会社同士の取引(兄弟会社間の取引で、同じ完全親会社を持つ場合)についても、実質的な株主は同一であるため、利益相反取引は適用されないと考えられる。
5.取締役会決議がない場合
利益相反取引について取締役会決議がない場合、会社は取引の無効を主張することができる。但し、善意無重過失の第三者に対しては無効を主張することができないのが判例だ。
6.まとめ
グループ会社で役員の兼務がある場合、利益相反取引が発生しやすい状況となる。その場合には、予め包括的な承認を得る方法もある。完全親子会社間の取引は利益相反取引とはならない。取締役会決議のない取引は原則として無効となる。