取引先が破産することなった場合、どのような対応を取ればいいのだろうか。
場面場面に応じてポイントを解説する。
目次
1.商品の販売先から破産する旨の連絡があった場合
まずは新規の商品の出荷等を停止するとして、その後は債権回収に向けた事実関係の確認が重要だ。
破産直前の債権回収は否認の対象となるリスクがあるが、破産には裁判所への予納金が必要であり、必ずしも破産手続を申し立てるとは限らない。破産手続を申し立てない場合には、相手と交渉が可能であれば債権回収の交渉を進めることが考えられる。
2.売買契約の相手先が破産した場合
実際に破産手続きの申立があった場合には、諦めざるを得ないケースも多い。しかし、実務上、動産売買の先取特権について検討することが重要だ。
動産売買先取特権とは、商品等の動産を売買した場合に、それに関する債権が他の債権者に優先するというもので、破産法上の扱いは、別除権として担保としての保護を受けることとなっている。
しかし、債務者又は破産管財人がその動産を処分して代金を受け取ってしまうと、その効力が消滅してしまう。従って、そのようなことがされる前に、法的手続をする必要がある。うまくいけば、単に債権届け出をした場合を超えて債権を回収できる可能性がある。
動産売買の先取特権は、破産管財人がその動産を保管している場合だけでなく、破産管財人が第三者に処分したものの、未だ代金を受け取っていない場合にも、物上代位権を行使して差し押さえることができる。典型的には、商流はA→B→Cだが、物はA→Cへ直送された後に、Bが破産したケースだ。代金がCからBへ支払われる前に法的手続きをする必要があることに要注意だ。cとaが同じグループ会社内にあれば、差し押さえる際に必要な取引情報の入手は容易に行うことができる。
これらの手続は、時間が優先するため、早急に弁護士へ依頼すべきだ。
3.請負契約の相手先が破産した場合
(1) 当方が請負人で、相手方である注文者が破産した場合
請負人(当方)・破産管財人双方が契約を解除することができる。
まず、双方とも契約を解除しない場合には、報酬請求権は全額につき財団債権となる(=優先的に支払うを受けられる)のが通説的見解だが、仕事の出来高について査定評価が可能な場合には、破産手続開始決定前は破産債権、開始決定後は財団債権とする見解も有力だ。
なお、請負人(当方)が仕事の目的物を占有している場合には、商事留置権が成立する場合がある。
いずれかの当事者が契約を解除した場合には、契約の解除は将来に向かって生じ、それまでの仕事の成果は注文者(相手方)に帰属する。請負人(当方)が既に行った仕事の対価は、破産債権となり、優先的効力はない。
仕事が完成し、引き渡しが済んでいない場合には、破産管財人による解除は認められないとする地裁レベルでの判例がある。今後予定される民法改正においてもその旨を明確化することが検討されている。
請負人(=当方)としては、専門家に相談し、どのような対応が一番有利になるかを検討することが重要だ。
(2)当方が注文者で、相手方である請負人が破産した場合
注文者破産のケースと異なり、管財人のみが契約を解除することができる。管財人が契約を解除した場合、注文者(当方)に前払金があっても、その返還請求権は財団債権となり優先的効力がある。
尚、相手先が個人で個人的労務を供給することが目的である場合、破産手続の対象外となる。
3.不動産の賃貸人が破産した場合
この場合、差し入れている敷金・保証金の確保が重要となってくる。不動産が第三者に任意売却された場合には、敷金・保証金が引き継がれるため、問題ない。また、不動産を借りて引き渡しを受けた時期よりも後に抵当権が設定されている場合では、賃借権を抵当権に対抗できるので問題はない。
問題となるのは、不動産を借りる前に抵当権が設定されていた場合で、任意売却ではなく、競売の実行された場合だ。この場合、対抗要件で負けるので、賃借人(当方)は立ち退きを迫られることになる。
その場合、敷金・保証金は、優先権のない破産債権となるのが原則だが、破産法上、寄託請求という制度があり、これを使えば、支払い済みの賃料相当分についてはその都度優先権を確保することができる。
対抗できない賃借権しかなくても、不動産が任意売却されて新たな賃貸人に敷金の返還請求が可能となるケースもあるが、リスク回避の観点から、寄託請求を行っておくことが重要だ。
4.商号や資産をそのまま使っている第三者がいる場合
取引先が破産したにもかかわらず、その取引先の商号や資産を使って営業を続けている第三者がいる場合には、場合によっては法人格否認の法理により、または商号の続用責任により、直接第三者に対して債権を行使できる場合がある。
5.まとめ
取引先から破産するとの連絡があった場合には、事実関係の確認が重要だ。商品の売買の場合には動産売買先取特権を行使できるかどうか専門家と検討する。請負契約は複雑であり、専門家とよく検討する。
不動産の賃貸人が破産した場合には、抵当権設定の時期が引き渡しを受けた時期よりも早ければ、寄託請求を検討する。