契約を守れなかった場合、その責任を負うのが原則だが、不可抗力によって契約を履行できなかった場合には、責任を負わない。不可抗力とは、当事者のコントロールできない事情による場合だ。
しかし、何が当事者のコントロールできない事情かは、一概に決まるものではない。
そこで、契約書に不可抗力の内容を明確にすることが有効だ。
1.不可抗力による免責の範囲
不可抗力による免責は、金銭債権の場合は適用されない(民法419条3項)。通常の債務の場合には、不可抗力による免責が認められるが、金銭債権の場合は認められないということだ。
売買の場合、買い手は金銭債務のみを負う一方、売り手はそれ以外の債務を負う。したがって、買い手は不可抗力の概念が狭い方が有利であり、売り手の場合は、不可抗力の概念が広い方が有利となる。
2.具体的な定め方
次のような事項を不可抗力とすることがある。
(1)法令の制定・改廃
(2)行政指導
(3)行政機関等による許認可手続の遅延
(4)天災地変
(5)ストライキ、サボタージュその他の労働争議
(2)の行政指導は、強制力がないため、一般に不可抗力には該当しない。不可抗力の概念を広げるということで、売り手に有利な条項となる。
あるケースで行政処分を受けるか法令の解釈が不明確であり、行政の判断によって一定の判断が示されてその行為をしないように求められたら、行政処分を受けるまで進めることはリスクがあるため、実際には応じざるを得ないケースもあるだろう。
そのようなケースが想定される場合であれば、売り手としては、買い手に説明してこの契約条項を設定することが考えられる。
(3)の許認可手続きの遅延については、確かに遅延が生じることは当事者のコントロールできない事情だ。しかし、数日程度の遅れであれば、売り手が通常予見できる範囲内といえる。
また、遅延が生じる原因について、売り手に責任があれば、当事者のコントロールできない事情とは言えないだろう。
売り手としては、このような条項が入れば有利となる。買い手としては、「行政機関等による許認可手続の著しい遅延(売り手の責任によるものを除く)」と、「著しい」を入れて範囲を限定したうえで、遅延が生じた原因についても限定すべきだ。
売り手の立場に立った場合、更に「材料の調達先の納期遅延」「生産設備の不具合」を入れることも考えられる。不可効力の範囲が広い方が売り手に有利だからだ。一方で、買い手としては、可能な限り不可抗力を限定することが有利となる。
3.まとめ
不可抗力の範囲について契約書で明確にする場合、売り手にとっては範囲が広くなるように、買い手にとっては範囲が狭くなるように交渉する。