債権回収に当たり、時効期間が経過すると、回収が難しくなる。
そこで、債権の種類に応じた時効の期間、時効の起算日、債務承認や内容証明郵便の効果等についてポイントをまとめた。
目次
1.取引によって異なる期間
時効の期間は取引によって異なる。特に覚えておく必要があるのは、次の通りだ。
債権の種類 | 時効の期間 |
---|---|
生産者・卸売または小売商人の売掛代金債権 | 2年 |
請負人の工事に関する債権 | 3年 |
商事債権 | 5年 |
通常の債権 | 10年 |
「生産者・卸売または小売商人の売掛代金債権」については、適用範囲が広く、会社が事業として行う通常の売買取引は2年になるという前提で時効期間を管理する必要がある。
「商事債権」とは、商行為によって生じた債権のことで、株式会社がその営業のためにした行為は商行為に該当する(商法503条1項)。株式会社の取引は、法律に上記のような短期の消滅時効の定めがない限り、時効期間は5年となる。
商事債権でもなく、法律に特に定めがない債権の時効期間は10年だ。
このほかにも、法律では細かい時効期間が設定されているので、注意する必要がある。
2.時効の起算日・間違いやすいポイント
時効の起算日は、いつからスタートするのだろうか。売買契約を例として、6月1日に売買契約を締結して、7月1日に商品を納品して、8月31日が代金支払期日になっていたとしよう。この場合、6月1日や7月1日ではなく、8月31日から時効がスタートする点に注意が必要だ。
なぜなら、時効は、債権が請求できるときからスタートすることになっているからだ。これは、時効の制度が、権利を行使できるのに行使しないで長期間経過した場合に、その権利者を保護しないという趣旨を含んでいるからだ。8月31日までは請求することができないので、時効の期間はスタートしないというわけだ。
貸金の契約で、10年後に支払う約束になっていた場合には、当然のことながら、10年後になったら返す必要があり、借りた側は10年たったから時効だということは言えない。
商品の売買で月末締め翌月末払いの条件となっているケースでは、5月15日に納品をした商品についての債権であれば、7月1日から権利を行使できるので、7月1日から時効の期間がスタートすることになる。
工事の請負の3年の時効については例外となっていて、工事が終わった時が起算日となる。このような例外は、法律で細かく設定されているケースもあるので、要注意だ。
3.時効期間が経過してもあきらめる必要はない
時効は援用することにより初めて効果が生じる。相手が援用しなければ効果は生じないので、請求をして支払いを受ければ有効な弁済となる。したがって、時効期間が経過していても、あきらめずに請求することも有効だ。
4.時効期間の再スタート
時効の期間が間近に迫ってきたら、何をすべきだろうか。時効期間が経過すると、相手が時効を援用すれば請求ができなくなるため、何らかの対応をする必要に迫られる。
一つは、訴訟を提起する方法だ。訴訟を提起した場合には、提起中は時効は完成しないこととなっている。
それよりも簡便なのは、相手から債務を承認してもらう方法だ。相手が債務を承認した場合、時効は中断する。中断というのは、時効期間が再スタートするということだ。また最初から時効の期間をカウントすることとなる。
例えば、時効期間が5年で、平成27年6月1日に相手が債務を承認した場合には、平成32年6月1日までの間は時効が完成しないこととなる(初日不算入の原則が適用されることに注意しよう)。
5.時効完成後の債務承認
では、時効が完成した後に債務を承認した場合、その債務の承認によりまた相手は支払う義務が復活するだろうか。いったん時効が完成している以上、債務の承認は無効だとする考え方もありえるが、この点は最高裁の判決で決着していて、債権者の信頼を保護するために、債務者は信義則上時効を援用できないこととなっている。
従って、時効が完成していても(あるいは時効が完成しているか不明な場合に)、相手に対して債務の承認を求めることは、時効を完成させないための有効な方策となる。
債務者のほかに保証人がいる場合、時効期間内の債務承認であれば保証人に請求することは可能だが、時効期間経過後の債務承認の場合には保証人に請求することができなくなるので、注意が必要だ。保証人の立場で見れば、いったん時効が完成した以上、時効の利益を享受することができる。
6.内容証明郵便の効果
相手に対して内容証明郵便を送った場合、時効の期間が延びるという効果はあるだろうか。答えは、6か月以内に訴訟や支払督促等の裁判手続きをとった場合に限り時効が中断することになる。
時効期間が残り十分にある状態で送っても、訴訟や支払い督促をすれば時効が中断するため、内容証明郵便を送って効果があるのは、時効の完成が迫っているタイミングで、後に訴訟手続きを実施する場合、ということになる。
内容証明郵便ではなく、単なる督促であっても同様の効果がある。証拠として残すという意味で、配達証明付の内容証明郵便で送付することが望ましい。
7.時効期間を延ばす合意
債権者としては、時効という制度は不利なので、予め契約書で時効の期間を延ばす合意をしたくなる。しかし、法律上、時効の利益は予め放棄することができないので、このような合意をしても無効だ。
あくまでも、普段からの債権管理が重要となる。
8.まとめ
時効は債権の種類に応じて期間が異なる。時効期間がスタートするのは、契約締結時ではなく、支払期日からということに注意する。時効が完成しても、必ずしも請求をあきらめる必要はない。
債務承認には、時効を中断する効果がある。時効完成後の債務承認も有効だが、保証人に対してまでは効果がない。内容証明郵便の送付は時効の完成が迫っている場合で6か月以内に訴訟手続をする場合には中断事由として意味がある。