法律上、契約相手が契約の履行を怠った場合には、契約に定めがなくても、契約を解除して契約を白紙に戻すことができる。
しかし、契約書には解除条項を別途定めることが通常だ。その理由について、及び解除条項の定め方について説明する。
1.契約解除条項を定める意味
契約相手が約束の期限を過ぎても納品してくれない。このような場合には、契約書に定めがなくても、履行を催告したうえで契約を解除することができる。
では、次のような場合はどうだろうか。契約相手に信用不安が生じているが、すでに注文に対して承諾の意味で請書を出していたときだ。
この場合は、代金を回収できない可能性があることから、いったん成立した取引を取りやめたいと考えるだろう。しかし、単に信用不安が生じていたとしても、いったん成立した契約を履行しないと、契約違反となり、損害賠償義務を負う可能性がある。
このような場合に役立つのが、契約解除条項だ。信用不安が生じた段階で、契約を解除できる条項としておけば、実際に相手から納品を求められても、契約を解除すれば応じる必要はないこと
になる。
また、このような契約解除条項があれば、商品を納品済みの場合で、相手に契約違反がない状態であったとしても、信用不安が生じた段階で契約を解除して商品を返品してもらう、ということも可能となる。契約解除条項がなければ、相手に契約違反がなければ、あくまでもお願いベースとなってしまう。
相手方に信用不安が生じた場合、判例上、「不安の抗弁権」により既に締結した取引を拒絶することもできる場合があるが、これが認められるかはケースバイケースであるため、契約解除条項に解除できる内容を明記することをお勧めする。
また、注意すべき点として、取引基本契約書を結んでいる場合でも、その都度注文書・請書の交付により個別契約が成立するタイプの場合、相手の申し込みに対して契約に応じる義務は原則としてない(例外的に、相手がこちらに取引を依存している等、諸事情を考慮して契約に応じる義務が認定されることはある)。契約に応じる義務がない場合は、単に取引を拒絶すればよいこととなる。
2.契約解除条項の定め方
契約解除条項としては、次のような内容を入れることが考えられる。回収可能性に問題が生じるような信用不安が生じたという事実を記載することが重要だ。
(1)監督官庁による営業の取り消し、停止処分
(2)手形の不渡り
(3)支払不能、支払停止
(4)第三者より差し押さえ、仮差押え等の強制執行又は競売の申し立てがあった場合、または公租公課の滞納処分があったとき
(5)破産、特別清算、民事再生、会社更生手続きの申立があったとき
(6)解散の決議をしたとき
(7)本契約の債務の履行が困難であると認める相当の事情が生じたと○○が認めたとき
3.与信管理以外の局面
上記は支払いを確保するための条項だが、それ以外でも、契約を解除する必要がある場面がある。例えば、販売代理店が不適切な営業行為を行っていて、申し入れをしても改善をしないため、契約を解除したいというときだ。このような場合は、経済的な信用不安ではないため、それに備えた条項を予め入れておいた方がよい。次のような内容とすることが考えられる。
(1)相手方に対する背信的行為があったとき
(2)一ケ月以上連絡が取れなくなったとき
(3)本契約を継続しがたい重大な事情が生じたとき
このような条項を入れておけば、契約解除を明確に主張できることになる。
4.まとめ
契約解除は、契約に定めがなくてもできるが、範囲が限定される。売り手としては、信用不安に備えて、解除できる範囲を広げる条項を入れた方がよい。また、業務委託の際にも、相手が不適切な行為をした場合に備えて、その目的に即した解除条項を設定すべきだ。