債権回収が必要となるのは、相手が、資金がないので支払えない、と言ってきた場合だ。
まずは相手の財務諸表の提出を求め、資金繰りの状況について確認しよう。
以下ではその後の対応方法について解説する。
目次
1.代理回収・債権譲渡
通常、約束した代金を支払えないような会社は、資産価値を有する物はすでに担保提供済みとなっていることが多い。
そこで、どこから回収するかというと、売掛金から回収するというのが一つの対応となる。会社が動いている限り、売掛金は発生していくからだ。強制執行はコストがかかるので、まずは任意での回収を目指すべきだ。
(1)代理回収
代理回収とは、商品の販売先から直接自分に払ってもらう合意をすることだ。3者間で合意書を締結する。
(2)債権譲渡
商品の販売先の承諾が得られない場合、債権譲渡をすればよい。債権者・債務者の2者間で債権譲渡契約書を締結し、債務者から内容証明郵便で商品の販売先に譲渡した旨の通知を行えばよい。
2.担保権の実行
相手から担保を取っていれば、そこから回収することができる。
担保の取得には、不動産であれば抵当権の設定を受けたり、動産であれば譲渡担保権の設定を受けること等の方法がある。
不動産について抵当権の設定を受けている場合、法的手続(競売の実施)はコストがかかるので、まずは相手の承諾に基づく担保権実行として、任意売却の手続きを行う。
動産について譲渡担保権の設定を受けていれば、譲渡担保設定契約書の内容に従い担保権を実行する。担保権の実行方法には、帰属清算型、処分清算型がある。帰属清算型は、目的物を自己の所有として、時価との差額を清算するものだ。処分清算型は、目的物を売却して、その対価を債権に充当する。
3.公正証書
強制執行を認諾する文言の入った公正証書を有している場合には、相手方の債権に対して強制執行をすることができる。強制執行が可能な資産は、相手の銀行預金であったり、売掛債権だったりする。
相手の銀行預金については、銀行名と支店が分かっていればOKだ(郵便貯金は地域ごとに設置されている「貯金事務センター」単位)。
売掛債権については、取引の相手方や取引内容について知っている必要があるので、会計帳簿を入手したり、信用調査情報を入手するなどで情報を収集することが前提となる。
強制執行のような強硬な手段に出ることにより、有利な条件で和解をすることが可能な場合もある。
4.手形
手形の交付を受けていれば、仮に相手が手形金を決済できない場合、手形不渡りとなり、重大な信用不安を引き起こす。従って、手形を持っていること自体がかなりのプレッシャーになる。
相手が手形のジャンプ(期日書き換えの申し入れ)をしてきたとしても、安易に応じず、担保物を取得する等、リスクを少なくすることが重要だ。
5.分割払いによる和解
法的手続はコストがかかる。まずは任意に支払ってもらうよう交渉すべきだ。担保権がなく、相手に資力がなくて一括で支払うことができない場合には、分割での返済で対応せざるを得ないことが多い。
6.法的手続(債権の存在に争いがない場合)
強制執行可能な資産があるにもかかわらず、相手が支払いに応じない場合には、法的手続を行うことを検討すべきだ。
こちらの債権の存在に争いがなければ、「支払督促」の申し立てを裁判所に行うことにより、強制執行ができるようになる。
強制執行可能な資産がなくても、交渉の場に持ち込むために、支払督促の申し立てをすることもありうる。
7.法的手続(債権の存在に争いがある場合)
債権の存在に争いがある場合には、訴訟を提起する。
また、それに先立ち、仮差押をすることも考えれる。仮差押とは、訴訟提起後に資産が第三者に流出することを防ぐために、資産を仮に差し押さえるというもので、裁判で勝つまでの間その資産について、(預金であれば)支払いを受けたり、譲渡することを禁止する効力がある。
仮差押えをすることにより、銀行がそれを問題視し、口座を凍結するなど、事業に支障が生じる場合には、有利な条件で和解することが可能な場合もある。
但し、仮差押えをしたにもかかわらず裁判に負けた場合、損害賠償責任を負うほか、その担保として債権額の一定の額の担保金を仮差押の申し立ての際に予め供託する必要がある。仮差押は、弁護士に頼む必要がある。最短で1週間で効力を生じさせることも可能だが、もう少し余裕を見ておいたほうがよいだろう。
8.法的手続(第三者を訴える場合)
相手に支払い能力がない場合でも、必ずしもあきらめなくてもよい場合がある。
相手が会社で取締役がいる場合、取締役の任務違反(債権者を害する行為も任務違反になります)により損害を受けた場合には、取締役に重大な過失があれば、取締役に損害の賠償を請求できる場合がある。
また、事業を第三者に譲渡し、元の会社の商号をその会社が引き続き使っている場合には、その会社に対して責任追及できる場合がある。
強制執行を免れるために資産を親族に売却する等の行為をしている場合には、詐害行為取消権を行使してその行為を取り消すことができる場合もある。
相手がおかしいことをしていると思った場合には、弁護士に相談すべきだ。
9.まとめ
債権回収は、相手が支払いを怠ったり、支払い延期の要請がった時にスタートする。まずは、代理回収・債権譲渡ができないかを検討したい。担保を取っていれば担保実行により回収する。公正証書も有効だ。相手の資力が十分にない場合には、分割払いで合意することが多い。
相手に資産があるのもかかわらず支払いを拒んでいるときは、法的手続きにより回収する。訴訟提起に先立ち、仮差押えをすることにより迅速に解決できることがある。相手に支払い能力がなくても、第三者に対して支払い請求をできることもある。
債権回収に至る前の普段からの与信管理の手法については、下記のページを参照してほしい。
与信管理の手法 契約条項の例 取引数量の増加要求 信用不安時の対応