契約を結んだあとに、契約当事者間でトラブルになって訴訟を提起した場合、訴える裁判所の場所が問題となる。
管轄がある裁判所に訴えることができるのが原則だが、管轄裁判所は、予め契約当事者間で合意することもできる。
管轄裁判所はどのように定めればいいかについて説明する。
1.管轄の単位
管轄について決めることができるのは裁判所単位だ。東京地方裁判所には、八王子支部があるが、支部まで定めても効力が生じない。地方裁判所は、都道府県に1つあるのが原則だが、北海道は4か所ある。
2.どこを管轄裁判所とすべきか
管轄裁判所を指定する際には、 裁判となった場合に最もコストが少なくなると思われる場所にする。
その際には、顧問弁護士や担当社員、証人の移動に要するコストを考えることになる。裁判の一部の手続きは電話会議によることもできるので、遠隔地であってもある程度はその不便は緩和されている。
3.本来の管轄
管轄裁判所を何も定めない場合には、
(1)被告の住所地
に管轄が成立する。訴えられる場所で裁判をするというのが原則となっている。
これに加えて、
(2)金銭の支払い請求によるものは、原則として原告の住所地
にも管轄が成立する。金銭の支払い請求は、義務履行地に管轄が成立すると民事訴訟法に定められているが、特約がなければ、持参債務の原則により、債務者は債権者のところで義務を履行する必要があるからだ。
更に、
(3)特殊な訴訟では、他の場所でも管轄が成立したり、逆に管轄裁判所が限定されたりする。
このように、裁判所の管轄は、一つだけでなく、いくつかの裁判所に成立する場合もある。複数の裁判所に管轄が成立する場合、原告は、管轄が成立する裁判所について、任意の裁判所を選べる形になる(更に、相手に異議がなければ、どの裁判所でも訴えることができる)。
但し、管轄が成立する裁判所であっても、裁判所は当事者の申し立てまたは職権により他の裁判所に移送することがある点に注意が必要だ。
4.専属的合意管轄
管轄を定める際に、その裁判所だけで訴えることができるようにする場合には、「専属的合意管轄」を定めることとなる。単に合意管轄と定めただけでは、本来の管轄裁判所にも訴えることが可能だ。但し、専属的合意管轄を定めたとしても、裁判所は当事者の申し立てまたは職権により移送をすることができる。
5.契約書の定め方
自社の本店所在地を管轄裁判所とすることが有利と言えるが、契約相手も同様に考えると、交渉がまとまらない。その場合には、「被告の本店所在地を専属的合意管轄とする」と定めることがある。
この場合、金銭の支払い請求によるものであっても原告の所在地には管轄が成立しないため、お互いに訴えにくくなるということになる。管轄裁判所について定めないというのも一つの方法だ。
6.まとめ
契約書で管轄裁判所を決める際には、下記の点に注意したい。
(1)管轄は支部単位で決めることはできない。
(2)コストが最少となる裁判所を指定する。
(3)専属的合意管轄にするかどうか注意する。
(4)相手と折り合いがつかない場合には、対等な内容とする方向で提案することも視野に入れる。