一口に「継続的取引」と言っても、いろいろなタイプの取引がある。
例えば、売買契約は、本来は単発の契約だが、取引基本契約書を結んで継続的に取引するケースがある。また、賃貸借契約のように継続的に借りるケースがある。
このような継続的な取引については、解約について制限される場合がある。ポイントについて説明する。
1.継続的取引の解約に対する損害賠償請求
継続的契約が、不動産の賃貸借契約であれば、借地借家法により借家人保護が図られている。
一方、単発の売買取引が続いたに過ぎない場合であれば、次回以降の契約をするかしないかは当事者が合意するかしないかの問題で、次回以降分の契約が成立しているとして契約の履行を求めることはできないのが原則だ。
しかし、単発の取引の連続に過ぎないときでも、場合によっては、相手に対して履行を請求できたり、取引打ち切りによる損害賠償請求ができるケースがある。
その根拠としては、相手と長年取引を継続して、取引関係が依存している場合、突然申し入れがあったとしても、すぐには対応できなかったり、投下資本を回収できなくなってしまうため、一定の請求を認めるべきという考え方があるからだ。
取引基本契約書を締結している場合で、取引を打ち切る場合、中途解約条項を利用したり、契約期間満了による解約を主張することが考えられるが、その予告期間が短ければ、同様の問題が生じる。
2.判断要素
損害賠償請求が認められるような、継続的取引に該当するためには、主として以下の要素が考慮される。
(1)対象物の性質
競合事業者が多数いるため、取引相手を代替することが容易な取引については、認められる可能性は低くなるが、逆に、取引依存度が高い場合には、認められる可能性が高まる。
(2)投資
解約される側が、解約する側の何らかの関与により、多額の設備投資をしている場合には、認められる可能性が高まる。
(3)基本契約の存否
基本契約が存在すれば、継続取引であると認められやすくなる。一方、単発の契約しかなければ、継続的取引であると認められにくくなる。
(4)言動
契約当事者が長期の契約であることを前提とした言動をしていれば、認められる可能性が高まる。
3.損害賠償の範囲
損害賠償の範囲としては、突然の契約打ち切りにより失った、得られるはずであった利益を請求することがあり得る。今までの取引の年数が多いほど、得られる利益を計算する上での対象期間は長くなる。
また、投下資本についての損害賠償請求について可能な場合もある。
4.上記を踏まえた取引開始時の注意点
それでは、このような損害賠償請求が認められていることを前提として、継続的な契約を締結しようとする当事者は、契約当初に遡って、どのような対応をすべきだろうか。
(1)相手に依存する当事者である場合
取引基本契約書を締結し、投資を行う際には相手の確認を得てから行うようにする。また、今後の取引について継続するということを会話にして議事録に残しておく。
(2)相手に依存される当事者である場合
安易に取引基本契約書は締結すべきではない。相手先の投資には関与せず、取引の打ち切りがありうることを伝え、あくまでも自己の判断で実施してもらうことを伝え、その内容を議事録に残しておく。
5.まとめ
契約的に取引をしている場合、取引依存関係や設備投資の関係によっては、契約を急に打ち切ると、損害賠償責任が発生することがある。その場合、本来得られたはずであった利益や、実施した投下資本について請求されるおそれがある。
解約する当事者は、取引の性質を十分に検討したうえで、損害賠償責任を負うおそれがある場合には、相手に余裕をもって通告し、損害賠償責任を可能な限り減らすべきだ。