訴訟を提起したが敗訴してしまった場合、次の手段は控訴・上告をするかどうかになる。
その場合、どのようなポイントを判断すればよいだろうか。
1.検討事項
上訴をするかどうかは、判決に書かれた事実関係について当事者から見て不自然な認定がないかどうか、法律構成に問題はないか等を判断する。
事実関係について、明らかに事実に反する点があり、その点について立証が可能であったり、判例の傾向に反する判断が下されていれば、上訴した方がよい。
また、法律の判断は、微妙な問題になるほど、裁判官によって判断が分かれることが多い。微妙な問題である場合には、上訴することも考えられる。
2.期間制限
控訴・上告をする期間は、判決書を受け取ってから2週間だ。
判決の内容は、裁判所に出廷して裁判官の判決を言い渡しを聞く方法もあるが、判決予定時刻後に、裁判所に問い合わせても知ることができる。判決書はその場で受け取ってもよいが、控訴・上告をする時間を確保する場合には、受け取らずに郵送で受け取れば、少しだけ余裕ができる。
ただ、判決内容を知らないと検討できないことから、その場で受け取ってもよい。
控訴・上告の際には、単に控訴・上告をする旨の書面を出せば問題なく、理由は後で理由書を出せば足りる。2か月弱の猶予がある。
3.不利益変更禁止の原則
一部勝訴した場合、全部勝訴を目指して控訴・上告をしたにもかかわらず、不利益な方向に判決が変更されてしまっては、意味がなくなる。
そこで、法律は、控訴・上告をした場合、不利益な方向に判決を変更するのを禁止している。但し、こちらが控訴・上告をした場合、相手にとって控訴・上告期間が経過していたとしても、「付帯控訴」「付帯上告」をすることができ、この場合には、不利益に判決が変更される可能性が出てくる。
逆に言えば、相手が控訴・上告してきた場合には、こちらに敗訴部分がある限り、付帯控訴・付帯上告をするのが通常だ。そうすると、一般に、控訴・上告をすれば、相手に付帯控訴・付帯上告されて、判決が不利に変更されるリスクは考えなければならない。
4.統計
では、控訴・上告をした場合の統計はどうなっているのか。
(1)高等裁判所への控訴の場合
平成25年度に通常訴訟について高等裁判所が控訴審として判決をした総数は9,918件だが、そのうち2,088件が取消しとなっている。割合としては21%ということになる。ある程度の割合で判断が変わっているということが分かる。
また、高等裁判所では和解の勧試が多く行われ、判決に至る前に和解により解決することも多数ある。和解の場面では、勝訴当事者であっても裁判官からプレッシャーをかけられ、和解に応じざるを得ないことも多い。有名な青色発光ダイオードの訴訟もそのような和解で解決している。
(2)最高裁判所への上告の場合
平成25年度の最高裁判所の既済の件数(上告時と上告受理申し立てを合わせて1件と計上する)は3,877件だが、破棄判決は上告と上告受理申し立てを合わせて50件となっており、重複がないとして多めに見たとしても、割合としては1.3%ということになっていて、判決が変更となる可能性はきわめて低い。
これは、最高裁判所は上告するための要件が限定されていることが大きなハードルとなっているためだ。最高裁判所では和解の勧試は行われず、成立はゼロとなっている。
(出展:司法統計)
5.まとめ
控訴・上告をする際には、判決内容をよく確認し、判断をする。控訴については、判決が変更となる可能性がある程度あるが、最高裁判所への上告の場合は難しい。事実認定で微妙な案件は高裁に控訴することが有効だが、最高裁では事実認定は原則として判断されないため、逆転することは難しい。