他の会社を経営している人物を自社に社外取締役として招く場合、競業避止義務についての問題が生じる。
取締役が自社と競合する事業について取引をすることにより、会社に損害が生じれば、会社法上、取締役は会社に対して損害賠償義務を負う。その場合、会社が損害賠償を請求する気がなくても、株主が代表訴訟を提起すれば、取締役の責任が問われる場面が出てくる。
今回は、他の会社を経営している人物を自社の社外取締役にする場合の競業避止義務についての注意点を説明する。
なお、競合会社を経営する人物を自社の社外取締役にする場合には、情報を不正に利用されるリスクを十分に検討する必要がある。また、相手を信頼して社外取締役にする場合には、秘密保持条項が含まれた契約を締結するとともに、情報の利用目的も明確にしよう。
1.事業の部類に属する取引の範囲
競業避止義務の対象となる「事業の部類に属する取引」とは、会社が実際に行っている取引と目的物(商品・役務の種類)および市場(エリア・流通段階等)が競合する取引だ。エリアについては、会社が進出を具体的に予定していた地域も含む。また、取引には、仕入、販売双方を含む。
会社で事業を行っていなくても、子会社等で事業を行い、定款所定の会社の目的に記載している事業は、競業取引の対象となると考えられる。
従って、社外取締役が経営している会社が行っている事業と競合する事業を自社又は子会社等で行っていなければ、特に問題は生じない。
また、協業避止義務の対象は「取引」であり、取締役が自ら行う取引でなければ、規制の対象とならないのが原則だ。つまり、社長・常務等の名義で契約をすることは「取引」にあたるが、単に組織に属して指揮命令をしたという程度では「取引」には該当しない。
但し、株式を多数保有しているなど、その会社との結びつきが強固であれば、直接「取引」をしていなくても、「事実上の主催者」として「取引」をしたと認められることがある点に注意しよう。
2.取締役会の承認
取締役が「事業の部類に属する取引」をする際には、重要な事実を開示したうえで(取締役会設置会社は)取締役会の承認を受けることが必要で、当該取締役は、取引後遅滞なく取引についての重要な事実を取締役会に報告する義務を負う。
取締役が承認を得ずに取引をした場合、その取引によって得た利益の額は、会社に生じた損害額と推定される。何故このような規定があるかというと、取締役の協業は会社のノウハウ、顧客情報等を奪う形で会社の利益を害する危険が高いからだ。会社の承諾を得ない競業取引は、本来会社が得た利益を奪っていることを推定される形になる。
但し、これは推定規定であるため、取締役会の承認を得ずに取引を行ったとしても、会社のノウハウや顧客情報を使用せずに取引を行い、会社に損害を与えていないと評価されれば、推定は覆される。
また、取締役会の承認を得たとしても、その効果は損害額の推定が及ばないという意味を持つに過ぎない。実際に会社に損害を与えていれば、取締役は損害を賠償する義務を負う。
3.任務懈怠
取締役が協業避止義務に違反して会社に損害を与えていても、取締役に任務懈怠がなければ、損害賠償責任を負わない。
しかし、社外取締役であったとしても、その会社の取締役である以上、会社に対して忠実義務を負うため、損害を与えたにもかかわらず任務懈怠がないという事態は想定しづらいだろう。
違うケースで、自社の取締役を合弁会社の社長にして経営にあたらせる場合には、競業避止義務に違反して会社に損害を与えたとしても、任務懈怠とならないことが多いと考えられている。
4.まとめ
他の会社を経営している人物を自社の社外取締役にする場合、その会社が自社と競合する事業を行い、社外取締役が自分の会社のために自分名義で取引をする場合には、取締役会の承認が必要となる。
取締役会の承認を得たとしても、実際に会社に損害を与えれば、会社に対して損害賠償責任を負う。会社としては、情報の不正使用等を契約で明確に禁止すべきだろう。