契約は何をもって成立となるのか。契約書を取り交わすのであれば、契約の成立は明確になるが、常に契約書が取り交わされるわけではない。例えば、注文書を書面で送るだけのこともあれば、メールのみで依頼することもある。
その場合に、契約が成立しているかどうかが問題となってくる。
1.契約の成立(注文書・口頭による場合)
例えば、販促物のチラシを10万円で発注するケースを想定する。この場合、まず、チラシの仕様について業者と打ち合わせをした後、業者から見積をとるのが通常だ。そして、社内で必要な手続きを経たうえで、注文を依頼する。その際に注文書を出すとしよう。これに対し、業者は、注文書に対して、その注文を受けたということで請書を交付する。
この場合、請書を交付した時点で、お互いの契約の意志の合致が確認できるので、契約が成立するということになる。注意することは、契約書を作成しなくても、注文書・請書だけでも契約は成立するということだ。
注文書・請書がないケースについても考えてみる。口頭で業者に注文し、相手が口頭で承諾した場合、これはどうなるか。その場合であっても、口頭による意思の合致があるので、契約が成立する。
法律上、書面が必要と定めている特別なケース(保証等)を除き、口頭だけでも契約が成立するのが原則だ。こちらから、やっぱりあの契約はなかったことにしてほしいといっても、既に契約が成立している以上、一方的な取り消しはできない。
建設工事の発注や一定の条件を満たした下請の場合、建設業法や下請法の関係で、口頭発注はできず、書面の交付義務があることに注意が必要だ。但し、これに違反したからと言って、契約そのものが無効になることはない。
このほかに注意すべき事項として、例えば売買であれば、価格の合意がなく、価格の決定方法についての合意もない場合には、それは売買とは言えないので、契約は成立しない。契約類型ごとに、基本的な内容を欠けば契約が成立しないことがあることに気を付けたい。
2.FAX・メールの場合
FAXやメールのやり取りだけでも、契約は有効に成立するのか。口頭の合意も、書面の合意も、手段に違いがあるだけだ。それはFAXやメールであっても異ならない。
FAXやメールでも、お互いの合意についての有効な意思が認められれば、契約は成立する。
3.口頭の合意は書面による合意よりも効果が低いか
口頭の合意やメールの合意で成立した契約であっても、通常の契約と何ら効力は変わらない。注文書に記載された条項等の義務を履行できなければ、通常の契約と同じように損害賠償責任を負う。
注文をする場合には、よく考えたうえで注文をする必要がある。
4.注文した後、相手が注文に応じるか応じないか放置していた場合について
注文した後、相手が態度を保留し、注文に応じないで放置していた場合はどうなるのか。
これは、株式会社間の注文(商人間の注文)であれば、対話者間であれば直ちに承諾がなければ効力を失い、隔地者間であれば、相当の期間が経過すれば、注文は効力を失う(商法507条、508条1項)。後になって相手がその注文に応じたいと言ってきても、応じる必要はない。
但し、これには重大な例外があって、株式会社間(商人間)にあっては、「平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは」遅滞なく回答をする必要があり、回答がなければ承諾をしたものとみなされるという法律の規定がある(商法509条1項、2項)。
これには、「平常取引をする者」と「営業の部類に属する」という要件があり、後者について、基本的商行為に限るとする説と、営業上集団的反復的に行う契約をいうとする説が分かれている。いずれにしても、継続的な取引先はこれらの要件に該当することが多いケースが多く、注意が必要だ。申し込みをしてその後放置していた相手から、この条項により既に契約は成立している、と言われる可能性があるからだ。
逆に、注文を受ける側から見ても、自動的に契約を成立することを防止するために、拒否の通知をする必要がある。「この条件で契約を申し込んだはずだ」「そのようなことはない、その条件では応じないと拒んだはずだ」といった争いになった場合に、しっかりと拒んだ事実について立証できるようにする必要がある。
取引基本契約書において、このようなケースについてどのような処理をするか、予め合意をしておくという対応も一般的だ。
5.まとめ
契約は、契約書だけでなく、注文書や請書、メールやFAXでも成立するし、口頭でも成立する。書面による契約と同様の責任を負うので、十分注意したうえで注文をする必要がある。
注文後、相手が応答しない場合の処理についての法律の規定は複雑なので、取引基本契約書において書面を取り交わしておくのが一般的だ。