契約当事者の一方の責任により契約が履行できなくなった場合、その原因となった当事者が責任を負うのは当たり前だ。では、どちらにも責任がない場合はどうするか。
それを決めるのが、危険負担の概念だ。契約書にどのような定めを置くべきか説明する。
1.「責任がない」と不可抗力の概念
危険負担は、どちらにも責任がない場合の問題だ。責任がないというのは、例えば不可抗力(天災地変)により通常考えられない事態で商品が滅失した場合が該当する。
責任がないという概念と、不可抗力によるという概念は区別されているが、実質的にはほぼ内容として重なっている。
2.危険負担の通常の処理
法律の原則は、引き渡し時点が基準となっている。引き渡し前であれば、売主が責任を負い、引き渡し後であれば、買主が責任を負う。
対象物を管理・支配している当事者が責任を負う、ということになる。
3.例外
但し、民法には例外があり、替えの効かないもの(例えば中古品)、つまり「特定物」の「売買」については、契約時が基準となると定めている。これは一般的な常識とは異なるため、契約書に特約を定めて、引き渡し時点を基準とすることを記載したほうがよいと言える。
また、建築物の請負契約については、請負人である施工会社は施主の土地に入って施工をするが、民法上、あくまでも引き渡しが済むまでは施工会社が危険負担を負うことになっている。
施主の土地の領域での事故は施主が負担を負うべきという考えもあるため、標準的な約款(民間連合協定工事請負標準約款)では、協議のうえ損害が重大であり、施工業者が善良な管理者としての注意をしたと認められる場合には、施主が負担すると定めている。
施工会社の場合には、このような条項を入れるように施主に求めるべきだ。一方で、施主の立場からは、何も記載せず、民法の規定に従って請負人の危険負担とする方が有利となる。
4.まとめ
危険負担は引き渡し時点が基準となるが、特定物の売買は契約時が基準となるため、約定で引き渡し時点に変更する。また、建築物の請負契約については、発注者に責任を負わせる条項を入れることがある。