消費者向けの新規サービスを始める際には、その提供条件を明らかにするために、利用規約(契約約款)を定めるべきだ。
商品・サービスの提供事業者からすれば、自己に有利な契約条項を入れることにより、リスクを軽減できるというメリットがある。
その際に、商品・サービス提供の基本的条件に加えて、どのような内容を定めるべきか、法令上どのような制限がかかってくるかについて説明する。
1.消費者からの申込に対する承諾について
消費者から申し込みがあった場合、全て受けるという対応も考えられるが、以前に支払いを怠って契約解除となっているにもかかわらず、再度申し込みをしてきた場合については、承諾を受けないという対応も考えられる。
また、商品・サービスの内容によっては、特定の種類の消費者に提供することが困難な場合もあるだろう。
消費者からの申し込みに対して事業者が承諾するかどうかは任意の判断に任されるため、あえて何も記載しないという方法も考えられるが、消費者に対する説明を円滑に行うことができるようにするという趣旨で、利用規約に、契約に応じない場合の理由について明記すべきだろう。「約款のここに書いてあるから応じられないんですよ」と説明することができれば、消費者の納得も得やすい。
2.遵守事項・禁止事項
消費者が商品・サービスの提供を受ける際に遵守すべき事項、禁止する事項を明記すべきだ。
(1)遵守事項
遵守すべき事項を定める意味は、消費者が遵守すべき事項を守らず不具合についてクレームをしてきた場合に備えるためだ。遵守すべき事項は、利用規約(契約約款)以外でも、注意事項として消費者に伝わっていれば十分であるといえるが、できれば基本的事項は利用規約に明記し、責任分担を明確にしたい。
(2)禁止事項(解約条項)
禁止する事項を定める意味は、消費者が事業の運営を妨げる態様で商品・サービスの提供を受けている場合に、事業者が提供を停止したり、契約を解約できるようにするためだ。どのような行為が運営を妨げるか検討し、その内容を具体的に定めるとともに、事業者側の判断で停止・解約ができる包括的な条項も設定するとよい。
3.変更条項
約款の内容を事業者側が変更することができる条項を記載すべきだ。契約が成立した場合、後から当事者が一方的に契約内容を変更することはできないのが原則だが、事情が変われば、契約内容を変更する必要が出てくる。そこで、事業者側としては、契約内容を変更できる旨の条項を入れるのがよい。
但し、変更できる内容については、自ずから限度がある。例えば、料金を10倍に上げるような約款変更は、信義誠実の原則から、認められないだろう。変更が認められるかどうかは、私見だが、消費者が受ける不利益の程度、変更の必要性の内容・程度、変更内容の相当性、変更手続の経緯等を総合考慮して判断されることになるだろう。
変更手続については、予告期間をおいて契約者に通知するという方法が妥当だろう。メールアドレスを把握していない等で安価な通知方法が利用できない場合には、やむなく公表するという方法も考えられるが、有効性は低くなる。契約約款には、変更手続きについても明記しよう。
4.事業者が負う損害賠償の制限
事業者としては、消費者に対して負う損害賠償責任は、可能な限り少なくしたい。しかし、消費者契約法は、(1)責任の全部を免除する条項、(2)故意・重過失による責任を一部でも免除する条項、の2つを無効にしている。
故意・重過失による責任は免除できないということであきらめるしかない。しかし、それ以外の責任については、責任の一部を免除する条項であれば有効となる。
この場合、1円でも責任を負えばよいのかというと、そうではなく、契約の趣旨からしてあまりにも少ない場合には、実質的に全部免除したと評価されるリスクが残ることとなる。
そこで、実際には、商品・サービスの代金に相当する金額(継続的なものであれば月額利用料等)を限度とすることが多い。
なお、損害の範囲として、間接損害、特別損害を排除する条項を入れることも多い。間接損害、特別損害の意味は、下記を参考としてほしい。過失・重過失の区分けについてもコメントしている。
違約金とは?損害賠償を直接損害・通常損害に限る意味
5.消費者への違約金の請求
消費者が契約をキャンセルした場合には、事業者としてキャンセル料を請求したり、預かったお金を返金しないという形で、違約金を課すことがある。
この場合、消費者契約法、特定商取引法による制限があるので、注意が必要だ。
(1)消費者契約法による制限
消費者契約法は、同種の契約の解除により事業者に生じる「平均的な損害」の額を超える場合、その部分を無効としている。
そこで、「平均的な損害」を予め見積もり、その範囲内に収まっているか検討することも重要だ。
「平均的な損害」の金額を算定するうえで、何を「損害」に加えることができるかが問題となるが、判例の傾向として、消費者のキャンセルに対して事業者が回避できる余地がある損害は、平均的な損害を算出するための損害としてみなされない傾向がある。
事業者に確実に生じる損害を積み上げて計算していくこととなる。
なお、この「平均的な損害」の立証責任は、最高裁判例では、消費者にあるとされているが、消費者が事業者に生じる損害を間接的な事実を利用して立証しようとした場合、それがそのまま認定されてしまう可能性があることから、事業者としても、十分反証を行う必要がある。
(2)特定商取引法による制限
特定商取引法に定める特定継続的役務提供(エステ、語学教室、家庭教師、塾、パソコン教室、結婚相手紹介サービスで契約期間、契約金額が一定額を超えるもの)については、違約金について制限が設定されている。詳細は消費者庁のページ(特定継続的役務提供)を参照してほしい。
6.まとめ
利用規約の内容を定める際には、契約の基本的条件を定めるほかに、申し込みに対する承諾についての条項、遵守事項、禁止事項、損害賠償の制限についての事項を定めることを検討しよう。
キャンセル料等の違約金を請求するときは、消費者契約法や特定商取引法の規制に注意しよう。