契約に違反した場合に備えて、ペナルティーとして違約金を定めることがある。
この場合、違約金を払えば別途損害賠償責任を負わないのだろうか。また、損害賠償についての条項は、どのように定めればいいのだろうか。
以下解説する。
1.損害賠償の損害額の立証について
相手が契約に違反した場合、損害の賠償を請求することができるが、それには損害が発生したことを立証する必要がある。
しかし、問題が起きたことで社員が動いたために人件費が発生した場合や、風評被害による将来の営業損害については、裁判においてもなかなか認められないのが実情だ。
2.違約金とは
違約金とは、契約に違反した場合に、一定金額を支払うことで、お互いの関係を清算するものだ。違約金を払えば、別途損害賠償義務は負わないことになる一方で、損害賠償を請求する側からすれば、損害の立証について苦労することもないというわけだ。
契約で定める違約金以上の損害が発生する可能性がある場合には、違約金を超える損害について別途損害賠償請求できる旨の条項が入れられることもある。
3.損害賠償の上限の設定について
リスク回避の観点から、業務の受託者等が損害賠償責任を負う場合について、その上限が合意されることがある。その際には、下記のようなものがある。
(1)損害賠償の上限を取引額の2倍までに限定する
(2)損害賠償の上限を直接損害に限定する
(3)損害賠償の上限を通常損害に限定する
(4)損害賠償責任を一切負わない内容とする
(1)の取引額の2倍までというという条項を設定する場合
商品1個当たりという意味なのか、取引全体を通じた金額なのか、その取引の期間はどうするのか、不明確になりがちだ。明確に記載しよう。
(2)直接損害に限定する条項を設定する場合
損害には、直接損害、間接損害という区分けがあるが、通説が定まっているといえる明確な区分ではない。そのため、できれば避けたい表現だ。取引対象物に生じた損害を直接損害、それ以外の損害を間接損害というニュアンスで使っていることが多いと思われる。仮にその意味であれば、取引対象物に生じた損害に限る、と明記すべきだ。
また、秘密保持契約において、直接損害に限定するという記載がなされることがあるが、上記のニュアンスで行くと、情報それ自体は物ではないため、流出はすべて間接損害となり、秘密保持契約を結んだ意味がなくなってしまうという結果になる。従って、秘密保持契約ではこのような限定はすべきでない。
一方で、約款に定める表現として、とにかくリスクを下げたいということでこの表現が使われることは一つの判断ではあると思われる。
(3)通常損害に限定する条項を設定する場合
この区分けは、通常損害と特別損害についての区分けで、こちらは民法に明確な定義がある。通常損害とは、債務不履行により通常生じる損害で、特別損害とは、特別の事情によって生じた損害だ。
民法上の原則では、通常損害が請求できるほか、特別損害は、当事者(契約に違反した側)が予見することができた場合に限り、損害賠償の対象となる。 通常損害に限定する条項が入っていた場合には、予見の有無を問わず、特別損害は請求できなくなるのが原則となる。
(4)損害賠償責任を一切負わない内容とする
損害賠償責任を一切負わない内容とすることも、契約条項としてはありうる。但し、故意・重過失による免責は、信義則に反するため無効となるという見解が有力だ。そこで、「但し、故意・重過失によるものは除く」と記載することも多い。尚、このような、責任をすべて免除する条項は、事業者と消費者との間の契約においては、消費者契約法により無効となる。
ここで、「重過失」という言葉が出てきたが、重過失とは、(1)「予見レベルでの著しい不注意」を示す見解のほかに、(2)「注意義務違反の程度が著しい場合」を示すという見解がある。前者の見解は、主観面を重視しているのに対し、後者の見解は、客観面も考慮に入れることになり、後者が実務の傾向だ。また、後者の見解によると、専門家であれば、注意義務の水準は高くなる。
損害賠償を請求するということは、イレギュラーな事態だが、可能性としては十分ありうるため、十分内容を検討すべきだ。代金を支払う側としては、金銭債務の不履行は遅延損害金の支払い義務を負うだけで、もともと自己のリスクは小さいため、損害賠償の上限を受け入れない方が有利だ。逆に、サービスを提供する側としては、損害賠償の上限を入れてリスクを限定したい。
4.まとめ
違約金は損害賠償の立証が困難な場合に備えて、一定の金額で損害額を予め合意するものだ。損害賠償の上限については、内容を十分に検討したうえで設定すべきだ。