商品を販売する場合、通常、納品が先になり、支払いは後になる。納品をした後に、取引先が破綻した場合、支払いを受けられない可能性が出てくる。納品をした時点で、相手が契約を履行できない場合に損失が発生するという可能性があるため、信用を供与している形になっている。
今回は、与信管理の方法について。契約条項の例や相手からの取引数量の増加の要求への対応等のポイントについて説明する。
1.与信が生じる様々な場面
与信が生じる場面は、通常は与信管理は商品を販売する際が問題になるが、それだけにとどまらない。
(1)商品を購入する側の場合
商品を購入する側であったとしても、注意が必要だ。商品を購入し、支払いを行った後に、商品に重大な瑕疵が見つかり、瑕疵担保責任を問うケースがあり得る。瑕疵があることにより損害賠償請求をする可能性があれば、不確定ではあるが、購入先に信用を供与している形になっている点に注意する必要がある。
(2)業務委託の場合
業務の委託について、受注者であれば、後払いが通常なので、与信管理の問題が生じる。
発注者の立場であっても、代金を支払った後に、委託した業務について問題が発生して後で損害賠償を請求する可能性があるため、同様に注意する必要がある。
(3)時期が早まる場合
商品を販売する場合、納品した時点から信用を供与することになるのが通常だが、例えば、納品する商品が特注品であった場合には、制作を開始した時点で、相手が契約を履行できない場合の損害を負担するので、信用を供与する形になる。信用を供与する時点が納品時点よりも早くなっていることに注意が必要だ。
2.与信管理の手法
基本的には、信用調査会社のデータが基準となる。
しかし、それだけで判断するのは危険だ。自分でその会社の人と会い、話をして確認し、支払い能力があるかどうか確信を得ることが重要だ。
また、大きな金額の支払いの場合には、相手が具体的にどのようにしてその資金を調達するかについての資金繰りの状況を確認しよう。
3.債権回収の確実性を上げるための契約条項
債権回収の確実性を上げるための契約条項としては、次の通りのものがある。
(1)信用力が悪化した場合の契約解除条項、販売停止条項
相手の信用力が悪化した場合に、それだけで契約を解除したり、販売を停止できることを明確にするためのものだ。
こちらも参考にしてほしい。
取引先信用不安時の対処方法は?契約解除条項
(2)所有権留保条項
商品が善意無過失の第三者に転売されない等、有効性に限界はある、一定の担保としての効力を生じさせるものだ。
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(3)担保の取得条項
実際に担保(連帯保証、抵当権の設定等)を取得したり、取引拡大や信用力の低下があった場合に担保を請求できるものだ。
担保物を取得する際には、担保権の実行方法についても定める。担保権の実行方法には、自分のものにして時価との差額で清算する帰属清算と、第三者に売却する処分清算がある。
担保物の価値が変動するもの(例えば上場株式)であれば、変動リスクを踏まえて、例えば時価の70%といった形で評価したうえで、与信限度額を設定する必要がある。
こちらも参考にしてほしい。
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(4)公正証書の作成
契約に定めた支払いができない場合に備えて、強制執行を認諾する文言を加えた公正証書を作成することがある。通常は、強制執行をする場合には、確定判決が必要だが、強制執行を認諾する文言のある公正証書であれば、いきなり強制執行することが可能となる。
但し、公正証書にしても、強制執行可能な財産がなければ意味がないため、担保としての意味はない点に留意することが必要だ。
4.相手からの与信額を増加させる要求への対応
相手から取引数量を増やしてほしいと要請があり、それに応じれば、結果として与信額を増加させることとなる。そのような要求に対しては、どのように応じればよいか。
(1)相手からの取引数量増加の要求
予め設定した与信限度額を超えて取引数量の増加を要求された場合には、与信限度額の見直しをするかどうか検討する必要がある。利益が見込めるからと安易に取引に応じない姿勢でチェックすることが必要だ。
(2)相手からの支払い期日延期の要求
相手が資金繰りに困っている場合、支払い期日を延ばしてほしいと要請されることがある。支払い期日が延びても、取引数量が変わらなければ与信額が大幅に増えることとなる。
このような要請があること自体が信用悪化を示す事情なため、改めて与信限度額について再設定し、取引数量を抑えていくことが必要だ。
5.信用不安時の対応
相手が資金繰りに困り、支払えなくなったと言ってきた場合、どのように対応すべきだろうか。
まずは、相手の会社の財務諸表を提出させ、すぐに支払ってもらうよう交渉していくべきだ。
通常、そのような会社は、所有する不動産については、金融機関の抵当権が設定されていて担保余力がないことが多いため、ターゲットとしては、まずは商品の売掛金債権となる。商品の販売先が分かれば、その売買代金を直接自分に支払ってもらう合意を締結することも考えられる(代理回収という)。また、売買代金について債権譲渡を受け、担保権を確保することも考えられる。
強制執行はコストがかかるので、まずは任意での回収を目指すべきだ。
6.まとめ
与信管理は、単に商品を販売するときだけでなく、様々な場面で必要となる。与信管理は、信用調査会社のデータが基準となるが、それだけにとらわれずに、自分で確信を持つようにしよう。債権回収の確実性を上げるための契約条項についても検討する。
相手から与信額を増加させる要求があった場合には、慎重に判断する。信用不安時には、確実に債権回収を進めよう。