ここでは、取引先が行う会計監査人への残高確認書の提出により、時効が中断するかについて検討する。
消滅時効の制度の詳細は下記ページを参考にしてほしい。
債権の消滅時効一覧 時効の起算日は契約成立時ではない 債務承認・内容証明郵便の効果
会計監査人は、監査法人が務めてることが多い。決算期が終わると、会計監査人は、監査の対象となる会社について、売掛金等の債権が本当にあるかどうか確認するために、会社に確認の依頼を行う。会社はそれを受けて、取引先に対して債務残高を記載した書面を郵送し、押印のうえ会計監査人へ送付することを求め、取引先はその対応を行う。
この一連のやり取りで、時効が中断するかどうかが問題となる。一般に、債務の承認は時効の中断事由になるが、債務承認は、債権者に対して行うものでなければ効力を有さないからだ。
1.時効中断の効力は生じないとする論拠
債務承認は、債権者に対して行うものでなければ効力を有さない。そこで、会計監査人への債務承認は、時効中断の効力を生じないという主張が考えられる。
2.時効中断の効力は生じるとする論拠
これに対しては、次の反論が考えられる。
第三者に対する意思表示であっても、当該第三者が本人から委任を受け、代理人又は使者となっている場合には、意思表示を受けることができる。そこで、会計監査人が会社から意思表示を受けることについて委任を受けているかどうかが問題となる。
会計監査人は取締役や監査役と同様に会社の機関であり、本来的に監査業務について委任を受けていると言える。
確かに会計監査人の業務は監査であり、取引について業務を行うものではないが、監査の関係上、会社による偽造の恐れのない形で残高を確認する必要性があることからすると、直接会計監査人に郵送する形になるのはやむを得ないものといえ、会社から会計監査人への委任関係は明確であり、代理人又は使者の関係にあるといえる。
また、残高確認は会社から自社の会計監査人へ送付してほしいと依頼するのが通常であることからすると、残高確認を受ける取引先も上記の事情を十分承知しているといえ、時効が中断しないと思っていたという予測を持っているわけではなく、不当ではない。
よって、会計監査人への残高確認書の提出は時効中断の効力を有する。
3.まとめ
以上のとおり、時効中断の効力は生じると考える。
判例上、この点は必ずしも明確になっていないため、訴訟になりそうな案件であれば、自社に直接送ってもらうという対応も考えられる。